
十月になった。
大学受験を控えた僕は、今日も育英センター魚津本部校の自習室へ向かっていた。
もうすぐ中間テスト。学校の勉強に加えて、大学入試に向けた勉強もしなければならない。
塾の階段を上る。
少し前まで「話し声ではなく努力が響く場所」と書かれていた階段の言葉が、十月になって変わっていた。


「TRICK or STUDY!」
自習室に入ると、周りも黙々と勉強している。
やっぱり、ここが一番集中できる。
家だとスマホを触ってしまったり、少し休憩するつもりが長くなったりする。でも、ここでは自然と机に向かえる。
しかも、問題を解いていて分からないところがあっても、1階へ行けばすぐに先生に質問できる。
10月末には全学年テストもある。
今の自分の力を試すには、ちょうどいい。
中間テスト、全学年テスト、そしてその先の大学入試。
やることは多い。
でも、周りを見れば、みんな頑張っている。
僕も英単語帳を開いた。
自習室に、ペンを走らせる音が響く。
TRICKより、STUDY。
今日もここで、一歩ずつ前へ進もう。
TRICK or STUDY!❷
十月になって、朝晩がいよいよ涼しくなってきて、学校へ行くにも半袖ではちょっと寒い、かといって長袖を着れば昼間は暑いという、なんとも中途半端な季節になったのだが、そんな季節の中途半端さなど構っている場合ではなく、なにしろ中間テストが近づいているうえに、十月末には全学年テストまで控えていて、しかも僕の場合はその先に大学入試という、考えただけで胃のあたりが少し重くなるようなものまで待ち構えているので、これはもう勉強するしかない、いや、勉強するしかないというより、勉強しないという選択肢を取った場合にあとで自分がどういう気持ちになるのかを考えると、それはそれで嫌なので、結局のところ僕は今日も育英センター魚津本部校へ向かっていた。
階段を上っていると、途中に貼られている言葉が変わっていることに気がついた、以前は「話し声ではなく努力が響く場所」と書いてあって、これはこれで随分と真面目なことを言うものだなと思いながらも、確かにこの階段を上って自習室に入ると、友達とくだらない話をするために来たわけではなく、大学に行くため、もう少し正確に言えば大学に行けるだけの学力を身につけるために来ているのだから、その言葉も間違ってはいないと思っていたのだけれど、十月になった今日はその言葉がなくなっていて、その代わりに、かなり大きな字で、「TRICK or STUDY!」と書かれていて、まあ十月だからハロウィンなのだろう、ハロウィンだからこういうことを書いたのだろう、しかし僕たち受験生にしてみれば、お菓子をくれなきゃいたずらするぞと言われても、いや、そんなことより単語を覚えなければならないし、数学もやらなければならないし、古文もやらなければならないし、そもそも中間テストもある、ということで、結局のところ選択肢はかなり限定されている。
自習室に入ると、すでに何人もの生徒がいて、以前なら授業が始まるまで少しくらい話をしている人もいたのに、最近はそういう人も減っていて、みんな机に向かって、英単語を覚えたり、数学の問題を解いたり、参考書を読んだりしていて、ああ、みんなやり始めたんだな、と僕は思った、いや、みんながやり始めたというより、僕たちがようやく、大学入試というものが、まだ先にあるようで実はそんなに先にないということに気づき始めたのかもしれないし、あるいは十月末の全学年テストが近づいてきて、そこで今の自分がどのくらいの位置にいるのか、どのくらいの問題なら解けるのか、逆にどのくらいの問題なら解けないのかを確かめることができる、つまり力試しができるということが、みんなの尻を少し押しているのかもしれない。
僕は家でも勉強しようと思えばできる、できるはずなのだけれど、家に帰るとスマートフォンがあるし、スマートフォンがあると触るし、ちょっとだけ休憩しようと思ってベッドに横になると、その「ちょっとだけ」がいつの間にか三十分になっていて、三十分になったことに気づいて慌てて机に戻るものの、今度は集中できなくなって、結局たいして勉強しないまま一日が終わるということがあるので、そういう意味では、ここが一番集中できる、机に座ってしまえば勉強するしかないし、周りを見ればみんな勉強しているから、自分だけぼんやりしているわけにもいかないし、それに分からないことがあれば一階へ行けば先生にすぐ質問できる、これはかなり大きい、分からない問題を三十分も四十分も睨みつけて、しまいには問題文そのものが憎くなってくるようなことをしなくて済む。
だから僕は席に座り、英単語帳を開いた。
中間テストがある、全学年テストもある、その先には大学入試がある、やることは多い、考えれば考えるほど多い、しかし、考えているだけでは一問も正解できないので、とりあえず今日やるべきことをやるしかなく、僕はシャープペンシルを持って、英単語帳の最初のページに目を落とした。
周りでは今日も、ペンの音がしている。
階段には、「TRICK or STUDY!」と書いてある。
お菓子か勉強か、ということなのだろうけれど、僕にはもう答えが決まっている。
少なくとも、大学に行きたいと思っている今の僕には、勉強するしかない。

