(2014年11月の塾通信より)
先回は{その1}として、「朝早く起きなさい」という指示を出した例を挙げました。勉強と直接関係のない「朝早く起きる」という指令は、子どもにとって「ん?! なんか違うぞ、勉強じゃないぞ、それなら、ちょっとやってみようか」と、好奇心を引き起こし、しかし結果として、余った時間を勉強してしまうようにもっていった作戦ですね。
生活を良い方向に変えれば、子どもは勉強に向かうものなんです。子どもの成績を上げたければ、まず生活態度から見直すこと。そのためには、親ももちろん率先して早起きすること。子どもにはきちんとさせて、親はグータラでは、子どもが良くなるわけはありません。
さて、今回は正攻法です。
《人の話を聞ける子はかしこい》
これは、私の中学時代の友人のことです。S君は、成績は学年1、2位の秀才でした。私は、彼がどんなふうに勉強しているのか気になって、さり気なく観察しました。彼は、家では勉強していませんでした!
彼の家は6畳2間のアパートに、両親、年上の兄弟3人と住んでいました。との時は知りませんでしたが、何か特殊事情がある家庭のようでした。彼が言うには「家でなんか勉強できるかい」。それはそうですね。ふーん、では彼は、いつ勉強しているんだろうか。
放課後?! 授業が終わると、彼は私と一緒です、野球部の練習を日が暮れるまで。もうわからないので、思いきって尋ねました。
「なあ、自分、いつ勉強してるんや?」
「勉強? ちゃんとしてるで、授業中。決まってるやん、授業って勉強するためにあるんやろ」
「まあな」
意外にも、彼は授業中以外は勉強していないようでした。そこで、私は授業中の彼の様子を観察しました。とりたててまじめな顔をしてないけれど、常にまっすぐ先生の方を見ています。社会の先生などは、余計な話ばっかりするので、たいていの生徒は「またか……」とばかりによそ見していますが、どんなつまらなさそうな時でも、彼は先生の方を見ていて、時々ニヤッと笑ったりしています。
それからもうしばらく彼の様子を見ていると、授業中だけでなく、朝の朝礼の時も、長くてうんざりする校長先生の話を、ひとりまっすぐ前を見て聞いているのです。
結局わかったこと。学年1、2位の学力は授業中の集中力、「聞きもらさない」ことによってできている。勉強する時間は、授業以外にないのですから。
塾・予備校講師をやるようになってからは、彼の「あの秘密」を思い出すようにしていました。「あの秘密」を分析すると、ポイントは、どうやら〈人の話を聞く力〉にあるような気がします。私は、人の話をあまりよく聞けないので、余計にそう思うのかも知れません。そして「彼はその力を、いったいどうやって身につけたのか」と考えて、遊びなどでの彼とのつき合いの中の風景をいろいろと思い起こしてみました。その中で印象的な光景の中心には、いつも彼のお母さんがいました。
例えば、彼とは二人でイタズラもし、悪いこともやりました。そんなとき、当然叱られますが、小さい子どもは言い訳をするものです。泣きながら彼が「しゃあけど……やねんで、かーちゃん」と訴えます。そんな時、彼のお母さんはいつも「うん、それで、」と、最後まで彼の言い分を聞くのです。長い長い弁明を、目をそらさずに、じっと聞くのです。そうして最後に、「でも、あんた、……、二度としたらアカンで」で終わるのでした。
私は今でも、この光景をありありと思い出します。どんな時も、子どもの話を聞いてくれる、そんなお母さんに育てられ、かれは「聞く力」を身につけたのではないでしょうか。
勉強の中心は、学校です。そして、授業はその核です。授業を集中して聞けることこそ、最も合理的な勉強方法です。そのための「聞く力」を身につけさせるには、「聞いてもらえた経験」がなくてはなりません。
「うちの子は勉強しない」と嘆く前に、まず、どんなことでも、子どもの言うことを聞いてあげられる親になってください。
子は親の鏡です。☆