「美術の授業では絵を描くのが苦手だったし、作品鑑賞では『どのように観てもいい』と言われて困った」
「美術館に行っても、作品を見ているより解説文を読んでいる時間の方が長いような気がする…」
こんなふうに、「美術」をどう考えればいいのかよく分からないまま大人になった親御さん、いらっしゃるのではないでしょうか?
こんにちは、子どもにぴったりの学習塾・個人指導塾を紹介する塾選び富山スタッフの稲泉です。
実は最近、このなんとも曖昧な「美術」の世界を、子どもはもちろん大人こそ学び直すべきだと再評価されているのをご存知でしょうか?
そんな説の火付け役となった本が、今回ご紹介する『13歳からのアート思考』です。
『13歳からのアート思考』の著者末永幸歩氏は、東京学芸大学の個人研究員であり、高校の美術教師でもあります。
この本の最大の特徴は作品の解説ではなく、鑑賞する側が作品とどう向き合えばいいかということに重点をおいて書かれている点です。
本書では、「アート思考」=「自分の内側にある興味をもとに、自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求を続ける思考」こそが、多様化する社会を生き抜くための力になると述べられています。
『13歳からのアート思考』でははじめに、「アーティスト」と「花職人」という2つの言葉を使って、両者の大きな違いが説明されています。
その中で「アーティスト」とは、「自分の中の『興味のタネ』から『探求の根』をはり、『表現の花』を咲かせる『生き方』」であると定義しています。
つまり、先ほどご紹介した「アート思考」を人生で実践している人のことを「アーティスト」と呼んでいるわけです。
一方「花職人」は、探求の根っこがない、花だけをキレイに作る生き方です。
「花職人」とは、他人が求めるものを作る=「他人の課題を解決する生き方」です。
現代では花職人による作品が溢れ、それが「アート」と呼ばれることもよくあります。
末永氏は、他人の課題を解決する花職人の作品と、自分の好奇心を元に造られたアート作品とはそのなりたちが違うと述べています。
大きく変化し続ける世の中で、すべての変化に逐一対応することは不可能になりつつあります。
多様化する世界の中で、正解にとらわれず、自分だけの視点で、自分だけの答えを導き出せる能力こそが、今求められています。
『13歳からのアート思考』では、「人間が絵を描く意味は何か」を探求し続けた20世紀のアーティストの作品6つを題材に、鑑賞者がどのように作品と向き合い、思考をすすめていけばいいのかが丁寧に解説されていますよ。
次章では、本書で紹介されている4段階の鑑賞法をご紹介します。
「アウトプット鑑賞法」では、作品を見て気づいたこと、感じたことなど、どんな些細な事でもアウトプット(発言・筆記・記録)します。
「人物の顔色が灰色だ」「コップが空に浮いているし、形もヘン」「雲の形がウサギのように見える」など、気づいたことを一緒にいる人と話したり、スマホや紙に書いたりと記録していきます。
美術館で声を出すのが難しいなら、画像や図録を見て話すのもいいですね。
このアウトプット鑑賞法が、「アート思考」を深めるための入り口になります。
「作品とやりとりする」段階は、すべての作品に対して行うのでなく、自分が何かを感じた作品で行います。
この「作品とやりとりするとき」に注意してほしいのが、作品のタイトルや解説文を読まないことです。
作品や解説を読んでしまうと、自分だけのイメージを狭めてしまいます。
作品に向き合い、「自分が何を感じるのか」「自分にはどう見えるのか」と、自分に問いかけ、答えます。
自分の感覚を観察して導きだした答えは、「自分がみつけた自分だけの答」です。
「常識を破る鑑賞」とは、作品に描かれたイメージから離れて、様々な視点から鑑賞する方法です。
例えば作品を「木枠と紙と絵の具でできている物質」ととらえたり、「何かの動きの残像」としてとらえたりと、あえて本来描かれたイメージとは違う視点で作品を鑑賞します。
与えられるイメージを鵜呑みにせずに、「この視点はどうだろう?」「こんな見方もあるのでは?」とさまざまな視点で見てみましょう。
自分だけの見方をみつければ、おのずと自分だけの答えにたどり着くことができます。
書籍『13歳からのアート思考』の中ではいろいろな作品を鑑賞するのですが、はじめに必ず自分なりの視点で作品を観察する過程があります。
じっくりと自分なりの見方をした後はじめて、作品が作られた時代背景や作者の意図などが解説されるのです。
一旦自分の中で作品をとらえた後に解説文を読むと、はじめに感じた自分の感覚が変化することがあります。
解説を読む前と後でどのように自分の考えが変わったかも、あわせて観察してみましょう。
「絵を見たとき、はじめに何を感じたか」「解説を読んでから再度絵を見たら、どんな変化があったか」を自らに問いかけると、さらに自分だけの答えを深めることができます。
『13歳からのアート思考』のあらすじと、4段階の鑑賞方法をまとめました。
「子どもには教養を身に付けてほしいけど、どんなふうにアートを鑑賞したらいいか伝えられない」と困っていた親御さんには、ぜひ今回ご紹介した4段階の鑑賞法を実践していただきたいです。
『13歳からのアート思考』に、「日本人が美術館に癒しを求める一方、西洋人は思考の刺激を求に行くという違いがある」と書かれています。
「美術鑑賞=なんとなく感覚でとらえるもの」ではなく、「自分を見つめ、自分だけの見方を鍛え、自分だけの答えを出す場」ということを意識して、親子で美術館を訪れたいですね。
ーーーーーこの記事を書いたのはーーーーー
稲泉 景子 (いないずみ けいこ)
富山で6歳男児子育て中の主婦。
これから子どもにどんな教育をしていけばいいのかお悩み中。
子育て本や教育本を読むのが好き。趣味はカフェ巡りとラクガキ。
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【参考文献】
末永幸歩, 『13歳からのアート思考』, ダイヤモンド社, 東京, 2020年。